バルコニーにある避難ハッチは一般的に「上から下へ建物利用者が避難する為に使用するもの」ですが、その中には “上下操作式” といって「下から上へ消防隊の方が消火活動をする為に使用するもの」もあるのです。
酸素ボンベを背負った消防隊の方が通りやすい様に、通常の避難ハッチ寸法が約600×600であるのに対して消防隊進入用の上下操作式避難ハッチ寸法は700×700と少し大きめとなっています。
以下に、上下操作式避難ハッチの具体的な使用方法と設置基準などについて記していきます。
700角の避難ハッチを設置した事例
◎ 避難ハッチに係る設置基準3つ
主にベランダ等で見かけられるハッチ式の避難はしごですが、以下の様な根拠法令に基づいて設置されています。
①消防法施行令第25条
消防法施行令第25条に基づいて、建物の収容人員が一定数以上の場合に設置義務が生じる避難器具の一つとして避難ハッチが設置されるケースがあります。
②建築基準法施行令第121条
建築基準法施行令第121条には「二方向避難」について謳われており、諸要件に該当する建物については「建築物の避難階以外の階から避難階又は地上に通ずる二以上の直通階段を設けなければならない。」と規定されています。
同条の第三項に、以下の文言が謳われています。
建基令第121条第三項
ただし、居室の各部分から、当該重複区間を経由しないで避難上有効なバルコニー・屋外通路・その他これらに類するものに避難することができる場合は、この限りでない。
③消防活動空地等の設置指導基準
建物によっては、はしご車を近づけて消防隊の方々が消火活動をを行う為の「消防活動空地等」を設けることが各市町村の条例等で規定されています。
しかし、場所によっては消防車の進入路となる幅4mや長さ7.5mが確保できないケースがある為、併せて代替措置の規定もあるのです。
例えば大阪府堺市については、堺市開発行為等における消防活動空地等の設置指導基準にて以下の様な文言が謳われています。
[代替措置]第8条(2)
地階を除く階数が6以下の建築物で、各階(避難階及び 2 階を除く。)のバルコニーに、上下操作式の避難器具(700×700 mm以上)又はこれに類する設備を設置し、かつ、当該避難器具に至る概ね1m以上の幅員を有する進入路を確保する場合。ただし、2階のバルコニーには避難階へ避難できる経路を確保するものとする。
所轄消防署において主に火災の予防に関する消防用設備等や防火管理に関する業務を行う担当部署が「予防課」であり、皆さんがイメージする消火活動を行う担当部署が「警防課」になります。ちなみに「予防課」という部署があることを、消防士になるまで知らなかった‥という消防士さんも沢山いらっしゃいます。
◎ 上下操作式700角の避難ハッチ使用方法
上下操作式の避難ハッチは「建物利用者」と「消防隊の方々」という、主に二種類の使用者を想定した機器になります。
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1避難ハッチの上ブタを開ける
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2避難ハッチの下ブタ開放ワイヤーを引く
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3固定部分が解除されて下ブタが落ちる
本来は消防隊の方が下からワイヤーを引っ張ることで、下ブタが開放される仕組みになります。上から操作する場合はレバーを赤い矢印の方向に動かすことで固定がリリースされます。
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4固定部分が解除されて下ブタが落ちる
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5チェーンを引っ張る
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6はしご部分が展張される
◎ 警防課による検査
上下操作式の避難ハッチについては消防法施行令第25条に基づく設置義務ではない為、消防検査を行う「予防課」の方々ではありません。
警防課の方が持っていた資料
消防検査の際、警防課の方に『2階部分に吊下げ避難はしご‥無いんですけど』と声を掛けられました。
『え、何のことですか?』とのことで、警防課の方が所持していた資料を見せて頂いたところ下記の文言が謳われていました。
①各界の東側バルコニーに屋外階段と接続する扉を設置すること
②建物3階以上の西側バルコニーに上下操作式避難ハッチ(有効700mm×700mm)を設置すること。なお、2階は降下式避難ハッチ(有効600mm×600mm)または避難はしご等の設置としてもよい。
③1階のエントランス扉・各階の屋外及び屋内階段出入口扉は自動火災報知設備連動解錠とし、1階のエントランス扉付近には併せて非常解錠装置ボタンを設置すること。
④連結送水管の送水口は正面玄関東緑地側、放水口は屋外階段内の踊場に設置すること。
⑤完成後、所轄消防署警備担当による設備使用の確認検査を受けること。
消防設備士は主に所轄消防署の「予防課」の方々が窓口となって相談等を進める為、時に「警防課」が担当する設備系の情報が現場まで伝わってこないことがあります。
所轄消防署や設計の先生との度重なる打合せの中で、700角の避難ハッチについては口酸っぱく設置について話題になりましたが2階の吊下げ避難はしごについては初耳だったことを警防課の方に伝えると『予防課と相談してみます』との返答が。
警防課と予防課が相談した結果‥
消防検査が終わってから数時間後くらいに警防課の方から『予防課と相談した結果、今回は収容人員に基づく設置義務は生じていないので2階の吊下げ避難はしご不要です。』との電話がありました。
すかさず『そうなんですか、有難う御座います!(※追加ない為)‥ただ、収容人員に基づく設置義務の話ですと今回は5階の食堂部分にしか避難器具の設置義務無いんですけど、その理屈だと上下操作式避難ハッチも不要ということですか?』と質問してみました。
すると警防課の方より『はい、しかし設置して頂けると消火活動をする際に大変助かります。』との回答を頂きました。
例えば避難ハッチの有無で “予算” および “設置工事” の手間が割と変わるので、予防課ではなく警防課の管轄で消防用設備等に該当する際にも消防設備士宛てに正確な指導が伝わる様になって欲しいです。
所轄消防署と相談して指導を仰ぐ際は、消防設備士側からも念入りに情報を聞き出す工夫をしましょう!
◎ まとめ
- バルコニーにある避難ハッチは一般的に「上から下へ建物利用者が避難する為に使用するもの」だが、その中には “上下操作式” といって「下から上へ消防隊の方が消火活動をする為に使用するもの」もあった。
- 消防隊進入用の上下操作式避難ハッチは、酸素ボンベを背負った消防隊の方が通りやすい様に寸法は700×700と少し大きめとなっていた。
- 建物によっては、はしご車を近づけて消防隊の方々が消火活動をを行う為の「消防活動空地等」を設けることが各市町村の条例等で規定されており、消防活動空地が設けられない場合の代替措置として700角の避難ハッチが設置されるケースがあった。