2021年4月15日に東京都新宿区のマンション駐車場にて二酸化炭素消火設備の誤操作によって、天井の張り替えを行っていた作業員の男性6人が中に閉じ込められ、このうち4人が死亡するという事故が起こりました。亡くなられた方のご冥福を心からお祈りします。
2020年12月22日に名古屋市のホテルにある機械式駐車場、そして2021年1月23日に東京都港区のビル地下1階駐車場と立て続けに二酸化炭素消火設備による死亡事故が起こっていた矢先、三件目となる今回の事故が起こってしまいました。
二酸化炭素消火設備の仕組みと誤作動による死亡事故ついて【解説】
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SNS上でも三度目ということで “頻繫に” 死亡事故が起こっているという発言が多くみられ、いよいよ立体駐車場等に設置されている二酸化炭素消火設備について根本的に対策しなければ再び同じことが起こる可能性が高そうだという認識になりそうです。
本件について、作動した二酸化炭素消火設備を含むガス系消火設備の工事・整備等を行う為の免状である ”甲種3類消防設備士” 有資格者であり、実務に携わるプロの消防設備業者としての見地から対策案を述べていきます。
【注意喚起】二酸化炭素消火設備の誤操作による事故への対策案
二酸化炭素消火設備が設置されている理由として、以下の二点が挙げられます(※設置義務が生じている建物について)。
二酸化炭素消火設備が設置されている理由
- 消火能力が高い(空気より重く、冷却効果も高い。)
- 設置費用が割安(消火薬剤ボンベ数が他の不活性ガス消火設備より少なく、CO₂ボンベ室の面積も小さい。)
また、以前に主流であったハロゲン化物消火設備についてはハロンガスが成層圏のオゾン層を破壊するとの理由から世界的に製造を中止することとなった為、再び二酸化炭素消火設備が設置されていました。
今後どういった動きがあるか不明ですが、我々の様な消防設備業者が人の命を守る為に取扱っている物で結果的に真逆の事が起こっている件について何も策を講じないのでは何のために商売しているのか分からなくなってしまいますから、具体的な提案をさせて頂きます。
◎ 消火薬剤ボンベの交換
まず、不活性ガス消火設備の消火薬剤に二酸化炭素ボンベが選ばれているところを、窒素を始めとするイナートガスのボンベに変更して消火薬剤自体の毒性を無くすことが対策の一つとして挙げられます。
イナートガス(inert gas)とは‥化学合成や化学分析や反応性の高い物質の保存に利用される反応性の低い気体のことで、窒素やアルゴンが最も一般的である。
ただし、二酸化炭素からイナートガス系の消火薬剤に変更すると、以下の点で追加費用が発生する可能性があります。
イナートガスに変更した場合の追加事項
- ガスボンベ自体の本数が増える≒単価が上がる
- ボンベ室に収まらない可能性がある(※別にボンベ室を設けることになる)
- 避圧ダンパの増設等が必要となる
特にボンベの本数が増えることでボンベ室に収まらない場合は、二酸化炭素ボンベからイナートガスに変更することが難しくなるでしょう(※要現地調査)。
不活性ガス消火設備の消火薬剤を二酸化炭素から窒素に交換すると何本ボンベ増えるか計算してみた
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◎ オゾン層を破壊しないハロゲン化物消火設備にする
現在、ハロンガスを用いたハロゲン化物消火設備(ハロン1301など)の設置は制限されていますが、ハロンの代替薬剤であるHFC-227eaを用いたハロゲン化物消火設備であれば二酸化炭素消火設備の代わりに設置することが可能です。
また、ハロンの代替薬剤を用いたハロゲン化物消火設備については、値段も上がるので二酸化炭素消火設備の誤操作リスクを天秤にかけた上で建物オーナー様の理解を得る必要があるでしょう。
ハロン1301消火設備の薬剤ボンベ(貯蔵容器)取替え【施工事例】
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◎ 第三類の消防設備士が立会い監督を行う
2021年4月15日に東京都新宿区で発生した二酸化炭素消火設備の放出事故を受けて、総務省消防庁より発布された消防予第187号通知にて以下の通り謳われています。
①二酸化炭素消火設備が設けられている付近で工事等が行われる場合は、誤作動や誤放出(以下「誤作動等」という。)を防止するため、第三類の消防設備士又は二酸化炭素消火設備を熟知した第一種の消防設備点検資格者が立ち会って監督を行うことにより、必要な安全対策の管理がなされる体制を確保すること。
②二酸化炭素消火設備が設けられている付近で工事等を開始する際は、その都度、当該工事等の従事者に対し、消火剤が放出されないよう閉止弁を閉止する等の措置を講じた上でなければ当該工事等を開始しないなど、必要な安全対策の内容について説明し、当該安全対策の確実な履行を徹底すること。
参考消防予第187号
二酸化炭素消火設備のある建物で作業を行う際は必ず消防設備業者に依頼し、万が一に誤操作があった場合でも消火薬剤が放出しない様な措置を講じて下さい。
大阪府堺市消防局からも、以下の様なリーフレットにて二酸化炭素消火設備のある建物の工事・メンテナンスの際には消防設備士が立ち会うことが呼びかけられています。
参考【リーフレット】二酸化炭素消火設備 死傷事故が発生(PDF:632KB)
事故を防ぐ為のチェックリストとして、関係者および工事・メンテナンス業者といったターゲット毎に下記の項目が挙げられています。
関係者の方は‥
関係する方に、以下の事項について周知をお願いします。
- 二酸化炭素の人体に対する危険性
- 二酸化炭素消火設備の適正な取扱方法
- 設備作動の際の対応方法
- 避難方法
ーーー
もし誤放出された場合は、以下の事項について実施をお願いします。
- 避難誘導
- 119番通報
- 立入を禁止(設備の設置部+隣接部)
- 関係する設備の専門業者へ連絡
工事・メンテナンスの方は‥
二酸化炭素消火設備・その付近で工事やメンテナンスを行う場合
- 二酸化炭素消火設備を熟知した消防設備士等を立ち会わせる。
- 関係者以外出入禁止を徹底(設備の設置部+隣接部)
- 誤って起動してしまった場合は非常停止ボタンを押下する。
関連ブログも御座いますので、併せてご参照下さいませ。
関連ブログ
二度と同じ事故を起こさない為に、二酸化炭素消火設備に関することは実績豊富な青木防災㈱のプロ集団にお任せ下さい。
◎ まとめ
- 相次ぐ二酸化炭素消火設備の誤操作による死亡事故について、”甲種3類消防設備士” 有資格者であり、実務に携わるプロの消防設備業者としての見地から対策案を述べた。
- 具体的な案として「イナートガスのボンベに変更して消火薬剤自体の毒性を無くすこと」「ハロンの代替薬剤であるHFC-227eaを用いたハロゲン化物消火設備であれば二酸化炭素消火設備の代わりに設置すること」「二酸化炭素消火設備のある建物で作業を行う際は必ず消防設備業者に依頼し、万が一に誤操作があった場合でも消火薬剤が放出しない様な措置を講じること」が挙げられた。
- 二度と同じ事故を起こさない為に、二酸化炭素消火設備に関することは実績豊富な青木防災㈱のプロ集団に任せて頂きたかった。