特に延べ面積の “倍読み” で、屋内消火栓の設置基準を逃れている物件を担当されている設計士や消防設備士は要チェックです!
「倍読み」とは‥
防火対象物が耐火構造か、準耐火構造で内装制限(室内の内装仕上げを難燃材料で行うこと)されている場合には、①の延べ面積や②の床面積の数値は “2倍読み” とします。
建築物の構造 | 延べ面積・床面積の基準 |
耐火構造 | 2 倍 |
準耐火構造+内装制限 | 2 倍 |
耐火構造+内装制限 | 3 倍 |
さらに、防火対象物が耐火構造のみで内装制限されている場合、①の延べ面積や②の床面積の数値は “3倍読み”とします。
例:映画館は延べ面積500㎡以上で屋内消火栓設備を設置する必要があるが、準耐火構造で内装制限されている場合、映画館であれば500㎡の2倍の延べ面積1000㎡以上でよくなる (地階・無窓階・4階以上の場合は床面積を2倍して、200㎡以上)
つまり内装仕上げが難燃材料もしくは準不燃材料になっていなければ、建物に屋内消火栓設備の設置義務が生じるケースがあるのです!
【屋内消火栓】建築基準法と消防法では内装制限の範囲が違います
◎ 建築基準法における内装制限の範囲
まず、建築基準法における内装制限の範囲は建築基準法施行令 第128条の5〔特殊建築物等の内装〕にて以下の通り謳われています。
特殊建築物の部分で床面積の合計100㎡(共同住宅の住戸にあっては、200㎡)以内ごとに準耐火構造の床若しくは壁又は法第二条第九号の二ロに規定する防火設備で区画されている部分の居室を除く。)の壁(床面からの高さが1.2m以下の部分を除く。第四項において同じ。)及び天井(天井のない場合においては、屋根。以下この条において同じ。)の室内に面する部分(回り縁、窓台その他これらに類する部分を除く。以下この条において同じ。)の仕上げを第一号に掲げる仕上げと、当該各用途に供する居室から地上に通ずる主たる廊下、階段その他の通路の壁及び天井の室内に面する部分の仕上げを第二号に掲げる仕上げとしなければならない。
一 次のイ又はロに掲げる仕上げ
- イ 難燃材料(三階以上の階に居室を有する建築物の当該各用途に供する居室の天井の室内に面する部分にあっては、準不燃材料)でしたもの
- ロ イに掲げる仕上げに準ずるものとして国土交通大臣が定める方法により国土交通大臣が定める材料の組合せによつてしたもの
二 次のイ又はロに掲げる仕上げ
- イ 準不燃材料でしたもの
- ロ イに掲げる仕上げに準ずるものとして国土交通大臣が定める方法により国土交通大臣が定める材料の組合せによつてしたもの
建築基準法上では、腰壁部分(床面から1.2m以下)は内装制限の範囲となりません。
内装制限って‥?
特殊建築物等の内装は政令で定めるものを除き、政令で定める技術的基準に従って、その壁および天井の室内に面する部分の仕上げを防火上支障がないようにしなければなりません。
内装制限に基づき、防火仕上げを行った壁や天井等には防火性能を表示するたラベルが貼られます。
参考日塗連
◎ 消防法における内装制限の範囲
建築基準法では床面からの高さ1.2mの部分(腰壁)は内装制限の範囲から除かれていたのに対して、消防同意審査要領では内装制限の範囲について以下の通り謳われています。
(3) 腰壁(床面からの高さが1.2メートル以下の部分をいう。)は、内装制限の対象とする。
よって、建築基準法ではOKでも消防法ではNGといった内装制限の範囲が発生します。
消防法上は、壁一面が内装制限の対象です!
◎ 消防検査時の指導
消防検査時に、腰壁の材質が難燃以上になっていなかったことが発覚した為、倍読みで免除されていた屋内消火栓設備の設置が指導されました。
冒頭でも述べた通り、特に消防法上の内装制限の範囲を遵守すべきタイミングとして「屋内消火栓の設置義務を倍読みの規定で逃れている場合」が挙げられます。
「建築確認 」⇒ 「消防同意」の段階では、腰壁以下の仕上げについて図面上に記載されていなかった為、そのまま同意が下りていました。
しかし、消防検査時に現地確認したところ腰壁以下の部分に難燃材料ではない木目調パネルが貼ってあった為、是正の指導がされた現場がありました。
もちろん、このままでは消防検査を通過することはできません!
対応・解決策は?
もし腰壁以下の仕上げが難燃材料で無かった為に屋内消火栓の設置義務が生じた場合の対応ですが、結果的に「パッケージ型消火設備を設置する」のみが現実的な解決策でした。
パッケージ型消火設備とは‥
パッケージ型消火設備とは、屋内消火栓の代替設備のことです。(※ただし設置基準があり、建物によっては設置できません。)
パッケージ型消火設備は水系の配管工事が一切発生しないため、表示灯用の電源の配線工事と機器本体の運搬・設置工事のみを行うことで完了します。
指導のあった現場は幸いにもパッケージ型消火設備の設置が可能であった為、追加で設置することで消防検査を通過することができました。
NGだった解決案3つ
今回の「腰板が難燃材料になっていない問題」の解決策として挙げられた以下の3つの案は、結果的に不可能でした。
✘ 上から難燃材料で仕上げをし直す(クロスを貼る)
結論から言いますと、腰板の上から難燃のクロスを貼って仕上げし直す方法は認められませんでした。
消防同意審査要領にて、内装制限の範囲について以下の通り謳われています。
(1) 内装制限は、下地材までは問わないもの。ただし、壁紙等で下地材及び施工方法との組み合わせにより防火材料の認定を受けているものについては、下地材及び施工方法を含むもの
ちなみに指導のあった現場では、不燃の石膏ボードの上に木目調パネルを貼って仕上げがしてありました。
この仕上げ材のみ難燃材料とすることで内装制限の規定を “法的には” クリアすることができます。
しかし、指定確認検査機関と所轄消防署で協議をしたところ、上からクロスを貼る方法では剥がれてしまう可能性が高いので認められないとの結論でした。
✘ 不燃塗料を塗る
こちらも結論から言いますと、不燃の塗料を塗っても木ベースの素材が難燃材料扱いになることはありません。
難燃塗料を取扱う㈱SOUFAの公式HPでは “不燃塗料は内装制限には対応できない。その理由解説。” と題したページが公開されています。
「残念ながら、当社の材料を塗ったところで、大臣認定の不燃材料にはなりません。」
【材料の燃えにくさ】
不燃材料 > 準不燃材料 >難燃材料
よって、難燃材料が一番不燃性の低い材料となります。
しかし以下の文言が、不燃塗料メーカ―のキャピタルペイント㈱公式HP上で謳われていました。
「モーエンアクア」は不燃材料上に塗装した塗装物としての試験で不燃材料認定(NM-0700)を取得しており、これを可燃物の木材に塗装したからといって木材そのものが難燃材料(準不燃材料・不燃材料)になるわけではありません。 しかしながら、「モーエンアクア」を塗装する事により、少なくとも木材の表面へ難燃性を有する塗膜が形成される為、このことが評価されれば許可を得られる可能性はあります。従って、「モーエンアクア」のカタログ及び国交省認定書一式を関係各所へ提出して確認する事をお奨めします。 平成16年4月埼玉県の幼稚園にて内装制限部分に塗装で許可となった実例をはじめ、全国で同様例があります。
今回の件であれば、木目調パネルに染み込ませるのではなく表面に難燃層を形成する扱いとされれば “許可” される可能性はありそうだと読み取れます。
✘ 屋内消火栓を追加で設置する
こちらは毎度お馴染みの非現実的な選択肢であり、そもそも消火ポンプ室や消火水槽を設置する場所がないので不可能でした。
パッケージ型消火設備の設置基準
パッケージ型消火設備の設置基準は以下の通りです。(※ほとんどⅠ型を設置します)
よって、パッケージ型消火設備を屋内消火栓の代替設備とする際には、設置基準を満たすために次の項目を確認します。
- 用途(駐車場・倉庫及び危険物貯蔵所は設置不可)
- 耐火 or 準耐火・非耐火
- 階数と延べ面積
消防法上の内装制限の範囲は壁一面です。もし腰壁が難燃材料等でない場合、追加で屋内消火栓設備の設置義務が生じる場合がある為、注意しましょう!
◎ まとめ
- 建築基準法では腰壁(床から1.2m以下)は内装制限の対象外だが、消防法だと壁面全てが内装制限の対象であった。
- 消防検査時に、腰壁の材質が難燃以上になっていなかったことが発覚した為、倍読みで免除されていた屋内消火栓設備の設置が指導された。
- 指導のあった現場は幸いにもパッケージ型消火設備の設置が可能であった為、追加で設置することで消防検査を通過することができた。