以下の様な読者を想定します。
- 消防設備士の点検業務について内容が分からない人。
- 消防点検以外にも法的にメンテナンスが必要な制度があるか気になる人。
- より安全で安心できる建物にする為、消防設備士にできることがないか模索している人。
結論から申し上げますと、消防法に基づく点検に加えて建築基準法第12条に基づく検査・調査等が行えると強い消防設備士ですね!
消防設備士が関わるべき5つの点検
①消防用設備点検
おそらく世間的にもっとも馴染みがあるのが、消防法第17条3の3に基づく「消防用設備点検」でしょう。
消防法に基づく国家資格である「消防設備士」には、 “甲種” と “乙種” があります。
点検・整備については、 “乙種” さえ取得していれば携わることが可能です。
消防用設備点検の周期
消防用設備点検は、以下の周期で実施義務が生じています。
・機器点検‥半年に一回
・総合点検‥一年に一回
また、所轄消防署への報告時期は以下の通り建物の用途毎に規定されています。
消防用設備点検の結果報告時期
・特定防火対象物‥一年に一回
・非特定防火対象物‥三年に一回
②防火対象物点検
次に、新宿歌舞伎町ビル火災を契機に制度化された「防火対象物点検」もまた消防設備士が実施することの多い点検として挙げられるでしょう。
消防設備士もしくは消防点検資格者の免状取得後、実務経験3年で防火対象物点検資格者講習の受講資格を満たせるので取得しておきましょう。
【参考】防火対象物点検資格者講習の受講資格3つ(※抜粋)
1 消防法第17条の6に規定する消防設備士として、消防用設備等の工事、整備又は点検について3年以上の実務の経験を有する者
2 消防法施行規則第31条の6第6項に規定する消防設備点検資格者として、消防用設備等の点検について3年以上の実務の経験を有する者
3 消防法第8条第1項に規定する防火管理者として選任された者で、3年以上その実務の経験を有する者
また、防火対象物点検の実施義務が生じる建物については、以下の通りです(消防法施行令第4条の2の2)。
防火対象物点検報告が必要な対象物
1 特定防火対象物(2を除く)
- 収容人員が300人以上
- 収容人員30人以上300人未満で、特定用途が避難階以外の階(1階・2階を除く。)に存し、当該階から階段が一のもの(屋外に設けられる階段等は除く。)
2 「自力避難困難者が多く入所する社会福祉施設」に供される部分がある防火対象物
- 収容人員が300人以上
- 収容人員10人以上300人未満で、特定用途が避難階以外の階(1階・2階を除く。)に存し、当該階から階段が一のもの(屋外に設けられる階段等は除く。)
※特定用途とは、劇場・遊技場・飲食店・百貨店・ホテル・病院など
※特定防火対象物とは、特定用途に供される部分があり、不特定多数の者が利用する防火対象物
※避難階とは直接地上通ずる出入口のある階
③建築設備定期検査
建築設備定期検査は、建物本体や設置されている設備(機械排煙設備や防火ダンパー等の “機械換気設備” および “非常照明” など)の劣化状態を検査して防災上の問題を早期に発見して危険を未然に防ぐ為の制度です。
俗に言う「12条点検」ってのが建築基準法上で謳われており、以下の種類が定められています。
12条点検
- 建築設備定期検査
- 防火設備定期検査
- 昇降機等定期検査
- 特定建築物定期調査
上記の内、昇降機等定期検査についてはエレベーター屋さんに一任すべきですが、それ以外の3つについては建物や設備に詳しい消防設備士だからこそ質のいい検査・調査の実施が期待できます。
12条点検が実施できる者として、以下の規定があります。
12条点検ができる人
すべて(建築設備定期検査・防火設備定期検査・昇降機等定期検査・特定建築物定期調査)
- 建築士(一級建築士・二級建築士)
各種法定点検
- 建築設備定期検査:建築設備検査員
- 防火設備定期検査:防火設備検査員
- 昇降機等定期検査:昇降機等検査員
- 特定建築物定期調査:特定建築物調査員
よって、建築士さんなら12条点検として規定されている検査・調査ができるというルールになっているのです。
設備自体に詳しい消防設備士であれば、建築設備定期検査をサービスの一つとして加えることも検討されるべきでしょう。
④防火設備定期検査
平成25年10月に発生した福岡市整形外科医院火災では「防火扉が適切に維持・管理されていなかったことによる煙の充満」が原因となった一酸化炭素中毒により、死者10名・負傷者7名という甚大な被害が出ました。
当該建物は防火扉の定期点検がされていませんでしたが、それまで明確なルールが確立されていなかったことにも問題があるとされ、平成28年6月1日より建築基準法改正に伴った 「防火設備定期検査」の制度が施行されています。
実は、防火設備定期検査の制度ができる遥か以前より、消防設備士が防火戸・防火シャッターの点検を実施していたという背景がありました。
「防火設備が適切に維持管理されていれば死者が出なかった可能性があった」ケースが実際に報告されている為、防火設備定期検査についても実施されているのが当たり前という世の中になって欲しいです。
⑤特定建築物定期調査
最後に、建築物の外部タイルや屋上の防水などを調査する「特定建築物定期調査」についても、消防設備士が有資格者となれば価値の高いサービスができるでしょう。
調査内容の詳細が『建築物の定期調査報告における調査及び定期点検における点検の項目、方法並びに結果の判定基準並びに調査結果表を定める件(平成20年国土交通省告示第282号)』にて、以下の通り謳われています。
特定建築物定期調査の内容(抜粋)
◎ 敷地及び地盤
- 外部の排水不良による地盤崩壊の兆候の有無の確認
- 基礎の異常による建物の不同沈下の兆候の有無の確認
- 屋外の避難経路が障害物により障害になっていないかの確認
◎ 建築物の外部
- タイル、石貼り等(乾式工法によるものを除く。)、モルタル等の劣化及び損傷の状況を目視調査・手の届く範囲の打診等調査
◎ 屋上及び屋根
- 防水材・金物の劣化の有無の確認
- 屋上の雨水の排水が落ち葉や泥などで障害になっていないかの確認。
◎ 建築物の内部
- 壁・床・天井における防火材料及び防火区画・下地材や仕上げの劣化の有無の確認
- 常閉の防火扉やシャッターの動作の不具合及び障害物の有無の確認(感知器連動閉鎖の防火設備は防火設備定期検査として2016年6月より独立)
- 石綿(※アスベスト)を使用している箇所について、飛散の可能性のある材料の使用の有無や飛散防止の処置・除去の状況の確認
◎ 避難施設等
- 屋内の避難経路(廊下・階段など)が障害物により避難の支障になっていないか等の確認
- 避難の妨げとなる火災の煙の侵入防止や、排出を行う設備(排煙設備)の異常がないかの確認
◎ その他
- 新耐震基準(昭和56年)が施行される前の建物の耐震診断や補強の実施の確認
- 行政庁により定められている項目がある(膜構造・自動回転ドア等)
◎ まとめ
- 消防設備士が行えると効率が良い点検制度として、防火対象物点検と建築基準法第12条に基づく検査・調査等が挙げられた。
- 俗に言う「12条点検」には、建築設備定期検査・防火設備定期検査・昇降機等定期検査・特定建築物定期調査の4つがあり、その内で昇降機等定期検査以外は建物の設備に詳しい消防設備士だからこそ質のいい検査・調査の実施が期待できた。
- 「防火設備が適切に維持管理されていれば死者が出なかった可能性があった」ケースが実際に報告されている為、防火設備定期検査についても実施されているのが当たり前という世の中になって欲しかった。