以前、2ちゃんねる設立者のひろゆき氏が以下の様な話をされているのを聞きました。
『新型コロナの影響でライブハウスが割安で買える。ライブハウスは消防法とかの規制が厳しくて後から作るのが難しい為、割安で買って新型コロナ以降で伸ばせる投資になるよ。』
上記について、消防設備士の視点から「(3)項ロ ライブハウス」の消防関係法令について解説していきます!
ライブハウスの消防法
◎ ライブハウスの用途判定
まず、ライブハウスは消防法施行令別表第一にて「(3)項ロ」に該当する場合が多いことに留意します。
つまりライブハウスといってもZeppなんば大阪みたいなところは(1)項イの可能性が高く、浜松窓枠みたいなところは(3)項ロの可能性が高いワケです。
街中の建物について『あれはイートインあるけど店舗メインだから(4)項かな…?』等と消防法上の用途判定をするゲームを消防関係者は全員やってますので、未だの方は宜しければ参加して下さい。(笑)
◎ ライブハウスの収容人員
消防法で建物の「収容人員」が規定されており、その用途ごとにキャパの算出方法があります(消防法施行規則第1条の3)。
(1)項の収容人員算定方法
次に掲げる数を合算して算定する。
1 従業者の数
2 客席の部分ごとに次の⑴から⑶までによって算定した数の合計数
⑴ 固定式のいす席を設ける部分については、当該部分にあるいす席の数に対応する数。
この場合において、長いす式のいす席にあっては当該いす席の正面幅を0.4mで除して得た数(1未満の端数は切り捨てるものとする。)とする。
⑵ 立見席を設ける部分については、当該部分の床面積を0.2㎡で除して得た数
⑶ その他の部分については、当該部分の床面積を0.5㎡で除して得た数
(3)項の収容人員算定方法
次に掲げる数を合算して算定する。
1 従業者の数
2 客席の部分ごとに次の⑴及び⑵によって算定した数の合計数
⑴ 固定式のいす席を設ける部分については、当該部分にあるいす席の数に対応する数。この場合において、長いす式のいす席にあっては、当該いす席の正面幅を 0.5 mで除して得た数(1未満の端数は切り捨てるものとする。)とする。
⑵ その他の部分については、当該部分の床面積を3㎡で除して得た数
収容人員の計算例
例えば「(1)項イ 延べ面積300㎡の音楽ホール」があったとして、立見席の部分が250㎡でステージが50㎡であれば以下の様な計算ができます。
収容人員の計算例
250㎡÷0.2㎡+50㎡÷0.5㎡=1,250+100=1,350人
※あと、ここに従業者数が1~10人程度加わります。
いざ計算してみると、(1)項イで立見席のあるライブハウスの場合であれば「人間がすし詰め状態になっているレベル」の定員数であると分かります(※(3)項ロ の基準で計算すると余裕のある数字が導かれます)。
そして、ここで重要なのが「収容人員の数によって、設置義務の生じる消防用設備等がある」という点です。
収容人員で設置義務の生じる消防用設備等
(1)項イ及び(3)項ロにおいて、収容人員毎に設置義務が生じる消防用設備等は以下の通りです。
(1)項及び(3)項の消防用設備等
10人‥避難器具(3階建てで直通階段1のみの階)
20人‥非常警報設備(地階・無窓階)
30人‥防火管理者の選任
50人‥非常警報設備(一般階)、避難器具(1階・耐火の2階は不要)
300人‥非常放送設備
上記の消防用設備等で、特に非常放送設備については設置費用が比較的高額になるので注意が必要です。
◎ ライブハウスは「無窓階」扱いになりやすい
ライブハウスは騒音防止の為に壁面に防音材等を貼ったりすることが多い為、消防法上の無窓階になることが多いです。
無窓階とは‥消防法上で『避難上又は消火活動上有効な開口部を有しない階』の事を指し、無窓階と判定された建物は消防用設備の設置基準が厳しくなります(消防法施行規則第5条の2)。
特に、既存の建物を用途変更してライブハウスにする際に無窓階扱いに変わると消防用設備等の設置義務が追加されるケースがあるので要注意です!
地階・無窓階に対する消防用設備等の設置義務
例えば、地階・無窓階となる(3)項ロ用途部分の床面積毎に設置義務が生じる消防用設備等は以下の通りです。
(3)項 地階・無窓階の設置義務
100㎡‥自動火災報知設備
150㎡‥屋内消火栓設備(準耐火≧300㎡、耐火≧450㎡)
700㎡‥連結散水設備(地階のみ)
1,000㎡‥スプリンクラー設備、ガス漏れ火災警報設備
5,000㎡‥総合操作盤(地階のみ、消防長等が必要と認めるもののみ)
よって、屋内消火栓設備の無かった建物を(3)項ロに用途変更する際に無窓階になると、屋内消火栓設備の設置義務が極めて生じやすいルールになっています。
初期設備投資として消防用設備等にウン百万円を費やす可能性がある他、そもそも設置場所が無くて詰む‥というパターンもありますので要注意なのです。
◎ ライブハウスには「カットリレー」を設置
カットリレー(電源制御器)は「自動火災報知設備と連動して音響装置の電源を遮断することで非常ベルや放送の音が聞こえるようにするコンセント」を指します。
例えば、消防法施行規則第24条にて以下の文言が謳われています。
主音響装置及び副音響装置を、ダンスホール、カラオケボックスその他これらに類するもので、室内又は室外の音響が聞き取りにくい場所に設ける場合にあつては、当該場所において他の警報音又は騒音と明らかに区別して聞き取ることができるように措置されていること。
ライブハウスの様な爆音が鳴り響いている場所では、非常時の警報音が聞こえる様にカットリレーを設置する必要があるのです。
ここに注意!
以前、用途変更時にカットリレーの追加設置義務が生じた際、自動火災報知設備の受信機から当該カットリレーまでの配線が物凄く大変なことがありました。小さい設備だからといって労力がかからないワケでもないので、舐めてかからない方がよいでしょう。
以上、ひろゆき氏の仰っていた「ライブハウスは消防法などの規制で後から建てるのが難しい説」はホント!という話でした。
◎ まとめ
- 以前、2ちゃんねる設立者のひろゆき氏が『新型コロナの影響でライブハウスが割安で買える。ライブハウスは消防法とかの規制が厳しくて後から作るのが難しい為、割安で買って新型コロナ以降で伸ばせる投資になるよ。』と仰っていたので消防設備士が解説した。
- ライブハウスは消防法施行令別表第一にて「(3)項ロ」に該当し、以前に消防検査を通したライブハウスも(3)項ロ 飲食店の扱いになっていたが規模や使用の様態で(1)項イになったりするので一概には判定できない部分があった。
- 収容人員の数によって設置義務の生じる非常放送設備(300人以上)や、無窓階になることによって屋内消火栓設備(150㎡以上)があるので用途変更時は十分気を付けるべきであった。