2020年12月22日に名古屋市のホテルにある機械式駐車場にて二酸化炭素消火設備が作動し、50代の男性作業員が死亡する痛ましい事故が起こりました。
本来、大切な人の命を火災から救う為に設置されている機器が、結果的に人の命を奪ってしまったことが残念でなりません。
本件について、作動した二酸化炭素消火設備を含むガス系消火設備の工事・整備等を行う為の免状である ”甲種3類消防設備士” 有資格者であり、実務に携わる消防設備士としての見地から解説していきます。
多くの方がガス系消火設備について知り、同じ悲劇が二度と繰り返されない様な世の中になることを切実に願います。
【追記】具体的な対策案について、まとめましたので併せてご覧下さいませ(2021.4.16)。
【注意喚起!】二酸化炭素消火設備の誤操作による死亡事故への対策案
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【解説】二酸化炭素消火設備の誤作動について
◎ 二酸化炭素消火設備とは‥
二酸化炭素消火設備はガス系消火設備の一つで、主に窒息消火(燃焼時に必要な酸素の供給を絶つ)によって防護区画内の炎を消すものです。
ガス系消火設備とは‥
ガス系消火設備には大きく、不活性ガス消火設備とハロゲン化物消火設備があります。
その不活性ガス消火設備に用いられる消火用ガスとして、二酸化炭素や窒素が該当します。
二酸化炭素消火設備と比較して危険性が少ないことやコストが低いことからハロゲン化物消火設備が主流となっていました。
しかし近年、ハロンガスが成層圏のオゾン層を破壊するとの理由から世界的に製造を中止することとなった為、再び二酸化炭素消火設備が注目を浴びています。
以下に、主なガス系消火設備の構成機器を挙げていきます。
消火用ガスボンベ
消火用ガスの充てんされたボンベです。
防護区画
消火用ガスが噴射される区画のことで、酸素濃度を下げる為に作動時は開口部が閉鎖されます。
音声警報装置
ガス系消火設備の起動がかかった際、消火用ガス噴射までに防護区画から避難するようにアナウンスするもの。
ガス噴射ヘッド
消火用ガスが噴射されるヘッドです。
制御盤
大元の制御盤、ガス噴射エリアの確認や起動・停止操作が可能です。
感知器
火災を感知して、自動でガス系消火設備を起動させる為のもの。
手動起動装置
防護区画のガス系消火設備を手動で起動させる為のもの。
◎ 原因は手動起動装置の誤操作
以下の内容が、FNNプライムオンラインより報道されました。
消火設備が作動した原因について、警察と消防が調査を進めているが、亡くなった玉田さんとは別の男性作業員が、駐車場の出入り口付近にある作動ボタンを誤って押したとみられることが捜査関係者などへの取材で新たにわかった。
◎ 同じ悲劇を繰り返さない為に‥
二度と同じことが起こらない様に、以下の事項について知って頂きたいです。
ガス系消火設備は危険!
ガス系消火設備が起動した際、防護区画内にいると命を落とします。
濃度の高い二酸化炭素は猛毒であり、一度吸い込むだけで死に至る可能性があります。
音声警報が鳴ったら避難する
ガス系消火設備が放出されても、車や貴重品類は一切汚損しません。
自分の命を最優先にして、大切な人と同伴されている際は共に速やかな避難をされて下さい。
設備を熟知した者が立ち会う
当該事故を受けて通知された令和2年12月23日 消防予第410号「二酸化炭素消火設備の放出事故の発生について」にて、以下の文言が謳われています。
今般の事故を踏まえ、二酸化炭素消火設備が設けられている付近で他の設備機器の設置工事、改修工事又はメンテナンスが行われる場合には、誤作動や誤放出を行わせないよう第三類の消防設備士又は二酸化炭素消火設備を熟知した第一種の消防設備点検資格者が立会うこと‥
以上、消防用設備等の中でも聞き慣れないであろうガス系消火設備の仕組みを簡潔に説明しました。
二度と死亡事故が起こらないよう、特にガス系消火設備が設置されている場所に立ち入られる方々は注意して下さい。
【追記】具体的な対策案について、まとめましたので併せてご覧下さいませ(2021.4.16)。
【注意喚起!】二酸化炭素消火設備の誤操作による死亡事故への対策案
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◎ まとめ
- 機械式駐車場にて二酸化炭素消火設備が作動して50代の男性作業員が死亡する痛ましい事故が起こり、大切な人の命を火災から救う為に設置されている機器が、結果的に人の命を奪ってしまった。
- 作動した二酸化炭素消火設備を含むガス系消火設備の工事・整備等を行う為の免状である ”甲種3類消防設備士” 有資格者であり、実務に携わる消防設備士としての見地から同じ悲劇が二度と繰り返されない為に広報した。
- 二酸化炭素消火設備が作動した原因は、別の男性作業員が、駐車場の出入り口付近にある作動ボタンを誤って押したとみられることが報道されていた。